楽読インストラクターのりゅういちです。
先日参加した、広陵高校野球部の中井哲之監督の講演会から、人と人とが関わる上で大切なこと、人生を生きていく上で大事な考え方について教えていただきました。それをシェアしたいと思います。
アップなしで1時間説教
中井監督にはグレーゾーンがありません。白か黒しかない。良いこと良い、悪いことは悪い、グレーが大嫌いという方なのだそうです。
それを象徴する、こんなエピソードがあります。
甲子園は非常に決まりが細かく、ユニフォームでバスで甲子園に行ってバスを降りて甲子園に入る間は、「たれ章」という腰のところに「選手」とか「監督」という印をつけておかなければいけない決まりになっています。これを選手に渡しておくと、失くしてしまう恐れがあるので、広陵高校ではマネージャーが預かって、それを部長の先生に渡してバスの中で配って「これをつけておけよ」と渡すそうです。
しかし、ある日の試合前、いつものようにたれ章をバスの中で前から回していったとき、数はぴったりなので余るはずのないはずなのに、1個余って前に返ってきたのです。これは絶対にありえないこと。絶対に誰かがつけ忘れている。絶対につけておけよという話を聞いていない生徒がいるということです。
マネージャーが「監督にバレたらマズイ」と思って、こそこそしながら聞いて行ったら案の定、一人忘れている生徒がいました。
そして甲子園球場に到着。甲子園の試合前は一塁側も三塁側も室内練習場があって、試合前はそこでアップをする場所と時間があります。
そこで1時間ほどアップをして、その後に記者の方が入ってきて、試合前に少し取材をして試合に挑むという流れになるんですが、その日は室内練習場に入るや否や、中井監督がこう言ったのです。
「お前ら、座れっ!!!」
全員を正坐させ、さらにこう続けたのです。
「部長が一生懸命たれ章をつけとけよって、お前らに説明されているのに聞いていないなんて言語道断だ」
おそらく普通の監督なら、そんなところは見て見ぬふりだと思います。なぜなら、甲子園という晴れの舞台だから。ここで勝とうと思ったら、少々のことは見て見ぬふりをして、アップをして勝つ確率を上げることを選ぶと思います。しかし、中井監督は「白か黒」だからダメなことはダメなんです。
なので、そのときは一切アップをせずに、説教だったそうです汗
アップのための時間をずっと正坐で説教する・・・汗
しかし、最後に中井監督はこう言ったそうです。
「それでもお前らは広陵のユニフォームを着て、アルプススタンドにいる同じ野球部の仲間だったり、広陵の一般生やファン、家族、いろんな方が見てくださっている中で野球ができるんじゃ。そういう方々が応援に来て下さっているからこそお前らは野球ができる。そんな中でできる「ありがたみ」っていうのを感じなきゃいけんし、そんな中で勝たにゃいけんのじゃ。悔しかったら勝ってみい」
その言葉で選手たちは気合が入り、その試合に勝ったそうです。
これを聞いて「やりすぎじゃない!?」と感じる方もいると思います。しかし目先の勝ち負けよりも、礼儀や人として大切なことに重点を置いているところがすごいなと、僕は感じました。
「これじゃ選手があんまりじゃないですか!」
今から11年前の2007年の甲子園決勝戦、「広陵高校」対「佐賀北高校」の試合後のインタビィーでの中井監督のセリフです。この年は「私立学校の特待生問題」というのが話題になった年で、私立が後ろ指を指される状況での大会でした。
私立学校の広陵高校は、スカウトを一切しない高校でしたが、「私立だ」という理由だけで逆風にさらされました。しかし、それをはねのけ、一つ一つ甲子園を勝ちあがっていきました。
そして、まだ夏の甲子園で優勝したことがなかった広陵高校にとって、初めて優勝できるチャンスが回ってきたのです。
一方、相手の佐賀北高校は公立の進学校。甲子園出場の他校に比べ体が華奢な選手が多く専用の野球場を持っておらず、サッカー部と共有。ナイター設備もないところでコツコツと頑張ってきたという背景があって、思わず応援したくなる要素が満載の高校だったので、球場の雰囲気はというと、9割以上が佐賀北を応援している状況。佐賀北に有利なプレーが生まれると球場全体が湧くというような異様な空気感だったそうです。
球場全体が佐賀北を後押しするような異様な雰囲気にのまれたのか、球審のストライク、ボールの判定も佐賀北には甘く広陵には厳しいと感じられるものが多く、広陵のピッチャーの投げる球は、ストライクと思われてもなぜかボールと判定されていました。のちのピッチャーの野村選手は「どこに投げたらストライクなのか、分からなくなった」と話していたそうです。
それでも広陵打線が奮起し、試合は8回表を終わって4-0で広陵がリード。そして8回裏。佐賀北高校の攻撃。ここで歴史的な場面が生まれたのです。
球審になかなかストライクと判定してもらえず1アウト満塁に。明らかにストライクと思われる球をボールと判定されフォアボールとなり、押し出しの1点が入ってしまうのです。選手たちはみなこの判定は「おかしい!」と思ったそうです。おそらく観ていた方もそうだったと思います。Youtubeに映像が残っていますが、僕にはストライクに見えますね。
しかし高校野球独特の習わしで、審判に批判をするということは絶対にあってはならないタブーなのです。プロ野球なら審判に対して抗議をする場面ってありますが、高校野球では絶対にNGです。
選手たちはのど元まで「おかしい」と出かかりました。ふだんは温厚なキャッチャーが、大事な道具であるミットを叩きつけるほど選手たちの怒りは溜まっていたのです。
しかし、日頃から中井監督から「審判がおられて初めて野球ができるんだから、絶対に批判はするな」と言われていたので皆、必死に耐え忍んでいたのです。
そして、次のバッターに満塁ホームランを打たれて逆転4-5となり、そのまま負けてしまったのです・・・・
試合後、優勝校は優勝校の宿舎でインタビュー、準優勝校は準優勝校の宿舎でインタビューがあるのですが、広陵高校の選手たちは「どうしても優勝したい」という思いでここまで勝ち上がってきていたので、会場はどよーんとした暗く沈んだ雰囲気に包まれていました。
NHKのリポーターが中井監督に「試合を振り返ってどうだったか」と聞いたとき、中井監督はこう答えました。
「試合は勝った方が強いんです。強いチームが勝つんじゃなくて勝ったチームが強いんです。あの場面で、満塁ホームランを打てた佐賀北さんの方が強いんです。も・・・でも、3年間、命をかけて野球をやってきて、審判の想いひとつかどうか分かりませんけど、8回のジャッジはいかがなものでしょうか」
球審の判定についてこんこんと話し始めたのです。
「あんな判定をされると、どう対処していいのかわらない。どこに投げたらストライクなんですかね。あの押し出しで野村(ピッチャー)は腕が振れず、真ん中に投げるしかなかった。普段は何も言わない子供たちが『先生、たまりません』と。負けた気がしない」
それを聞いていたリポーターが言います。
「監督、僕もそう思います。しかしこれ以上言われると中井監督のお立場が…」
それは当然です。審判に対する批判を記者団にするのは異例中の異例。タブーですからリポーターは止めに入ったのです。
しかし、これを聞いた中井監督はすかざずこう言ったのです。
「僕の立場なんか、どうだっていいんですっ! 僕はこのまま広陵高校の監督をしていたら、あと何回でも甲子園に来るチャンスはあるし、来れば日本一を取れるチャンスもあります。でも選手たちは、この3年間という限りのある時間の中で、命をかけて野球をやってきたんです!それがこの結果じゃ、あんまりじゃないですか!!」
この言葉を聞いて、選手たちはみな号泣したそうです。しかしそれは、負けた悔し涙ではなく、「この人のもとで野球をやってこれて本当に良かった」。そういった感動の涙だったそうです。
こういう監督だからこそ、卒業生たちの間では「中井先生の顔を見て年を越す」というのが、今でも習わしになっているそうです。
準優勝で良かったと思える人生を歩もう
そして、この出来事に関して、僕が素晴らしいと感じたもう一つのことを最後にシェアして終わりたいと思います。
それは、決勝戦後に選手たちだけで開いたミーティングでの話です。試合後、選手たちだけで集まって、こんなことを話し合ったそうです。
「勝ち負けはもうどうでもいい。言っても仕方のないことだから。だから『あのときストライクだったら』って過去にとらわれるんじゃなく、『あのとき準優勝で良かった』っていう人生を歩んでいこう」
起きた過去の「事実」は変えられません。しかし、その「事実」をどう解釈するかで、「良い過去」になるか「嫌な過去」になるか、自分で選択できるのです。それをまだ18歳の選手たちが気づいて、実践していこうとする姿勢が素晴らしいと感じましたし、それは日頃の教育から生み出されたものであると考えると、人間教育の重要性を感じます。
長くなりましたが、先日聞いた講演会のお話の中からシェアさせていただきました。いかがだったでしょうか?何か少しでも学びや気づきがあれば嬉しいです。
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